仮面恋人だった頃に、他の社員にバレないようにするために私に言っていた言葉も、行動も。
演技ではない今の言葉だって、どうやって受け止めたらいいのか分からない。
本当なら、ここで自分の気持ちも素直に言ってあげられたら可愛げがあるんだろうけど、私にはお礼を言うことだけでも精一杯だし、今だってどこを見ていたらいいのか視線のやり場すら分からない。
「……美帆、こっち見て」
「いやだ。無理」
「なに、恥ずかしいの?」
「違っ……」
俯いていた私の顔を優しく両手で包み込んで、そのまま視線の位置を真樹と同じ位置に合わせられる。
もう外せない視線に、私の顔はさらに熱くなった。
「本当に、モテてるしこういうの慣れてそうなのに全然慣れてないよね。いいよ。仕方ないからチャンスあげる」
「チャンス……?」
「俺と結婚してくれるなら、このまま俺のこと受け入れて」
「えっ」
段々、真樹の顔が近づいてくる。
このキスを受け入れたら、返事は〝イエス〟だということになるのだろう。
いきなりの展開に戸惑ったものの、答えなんて既に決まっていた私は、そのままゆっくり瞼を下ろした。
彼と私の唇が触れるまでの時間がやけに長く感じて、また、ゆっくり瞼を開ける。
「はは、ごめん。待ちきれなかった?」
目の前にある彼の口角がきゅっと綺麗な弧を描く。
また私のことを面白がっている彼を睨み付けると、彼はまた大きく唇に弧を描いて笑い出す。

