結局、私は殆どゲームをすることができないまま茅ヶ崎くんを送り届けた。
家に戻ってくると真っ直ぐ自分の部屋へと向かい、隅っこで小さく三角座りをする。すると、それと殆ど同時に部屋の扉がゆっくり開いた。
「河合さん、ご飯は?」
扉から顔を覗かせてそう問いかけてくる真樹の言葉に、私は何の反応もしなかった。
まるで子供のようなあからさまな態度に、流石に何かを察した彼は「ごめん、入るよ」と小さく呟くと私の元へとやってきた。
「河合さん、もしかしてゲーム奪い取ったから怒ってる?」
大方、彼の予想は当たっている。だけど、私は首を縦には振らなかった。
「違う? どうしたの」
優しく、ゆっくり、子供を宥めるようにそう言って私の顔を覗き込む。
ふと絡まった視線にドキッとして、視線を外そうとするけれど、彼は私の視線を完全に捕まえた。
「言って」
真っ直ぐで優しい彼の瞳に、心がだんだん柔らかく、温かくなっていく。
「……真樹、ずっと、茅ヶ崎くんとゲームしてた」
「あー、うん……ごめん。つい、対抗心燃えちゃって。もっと茅ヶ崎とゲームしたかったよね」
ごめんね、と付け足した彼は、全然分かっていない。私は、そういうことを言いたいわけではないのだ。

