そんな私の気持ちを知らない彼は。


「ほら。北川さん。椅子持ってこっちおいで?」


と手招きをする。


“おいで”ってあなた……。


私のツボを大いにご存知のようで。


それでいて、無自覚なのがムカつくよ三島くん。


でも、私は素直にそれに応じるんだ。






「それじゃあ、始めようか」


と言いながら、三島くんは首元に手を持っていく。


何やら第一ボタンを外し、シュッという音を立ててネクタイを緩めた。


その姿を見て、口をあんぐりと開けて固まる私に気付いた三島くんは「どうかした?」と目をぱちくりさせた。


「あ…や。なんか、三島くんが三島くんじゃないみたいで」


「え?…あぁ、これ?」


三島くんは、自分のネクタイを指差す。


私はコクンと頷く。


「第一ボタン外して、ネクタイ緩めただけなのに俺っぽくない?」


「いつもの真面目な三島くんはどこへやら…」


「ははっ!俺だってそんないつもきっちり第一ボタンまで閉めてるわけじゃないよ!北川さんが思ってるほど、真面目な人間じゃないよ俺」


そう言って、クシャリと前髪をかき上げ笑う三島くんのいつもとは全く違う男の香り漂う姿にドキッとする。