「まぁ、いいんじゃん? 青井先輩はそういう存在だし」

「なにそれ、そういう存在ってどういう存在よ」

「だってほら、見てみ」


そう言ってりょうちんは青井先輩がいる周辺に向けて指を指した。私はりょうちんの言う意味をすぐさま理解して、あえてそこから視線を逸らした。

りょうちんの指差す方向には、青井先輩目当ての女子がたくさんたむろっている。決して広くはない食堂内、人でごった返しているせいでどこどなく食堂内の空気が薄く感じるのはきっと、大半の原因は先輩ファンのせいだと言っても過言ではないと思う。


「あれだけモテれば彼女なんて選び放題だよねー、ってか実際そうだし」

「まぁ、顔は良いもんね」


なんて、本当は顔だけじゃないって事は私だって知っている。

スポーツも出来るし、背も高くて頭だって良い。

目が悪いのか、授業終わりの時間、先輩の教室前を通った時に眼鏡をかけてるところを見かけた事があるけど、それすらもカッコ良かった。

むしろ時々かける眼鏡なんて、カッコ良さ三割増しだった。

……それに今はあんなだけど、本当はとても笑顔が似合う優しい人なんだ。


「だからかすみもそんな遠くから見つめてないで近くに行ったら? そしたら次の彼女になれるかもよー、うししっ」

「うししっ、て……そんなコロコロ変わる彼女のひとりになるなんて、私ならごめんだ。だいたいみんなもよく付き合おうなんて思うよね。彼女って言ったって、たった数日だけのまがい物じゃん」

「自分だけはそうならないぞ☆ ……なんて、めでたい事を考えて挑む結果なんじゃない?」


りょうちんは拳を作った右手で自分のこめかみをコツンと叩きつつ、ペロリと舌を出した。

明らかに人を小馬鹿にしている態度だ。


でも確かに、りょうちんの言う通りそれは本当にめでたい話だと思う。