「先生、好きです」

私は先生の目をしっかりと見て言った。眼鏡の奥のその目は少し困った色をしている。だが、先生は目をそらさずに返事をした。

「僕も生徒はみんな好きだよ」

この言葉の指す意味が分からないほど、私は子供ではない。先生はそう答えると思っていた。でも、思っていたからといって傷つかないわけがない。私は椅子から立ち上がり、一礼をして教室から出た。私の名前を呼ぶ先生の声が後ろから聞こえる。しかし、私は振り向かなかった。




私は普通の女子高生だ。ありがちな自己紹介ではあるが、本当にそうだと思う。得意なことも苦手なこともあまりない。普通に友達がいて、普通に恋をして。ただ、その恋の相手が先生であることを除けば、ということにはなってしまうが。

先生、というのは私のクラスの担任の西山先生のことだ。まだ二十七歳と若く、優しい人柄もあってか、女子生徒からの人気の的である。と言いたいところだが、二十三歳のイケメン先生には叶わないようで、人気はほとんどそっちに持っていかれてしまっている。

しかし、私は西山先生が好きだ。教師としてではなく、一人の男性として。優しくて、生徒のことを一番に思ってくれているところに惹かれた。だが、生徒と先生という関係である以上、思い切った行動には出られず、面と向かって好きだと言ったことはない。

それに、西山先生には婚約者がいる。
今度の四月、婚約者さんの誕生日に籍をいれるそうだ。そこまで決まっているのだ。私が入り込める隙など一ミリだってない。

しかし、私が先生のことを好きだということは、おそらく先生本人には勘づかれている。気がつけば目で追ってしまうせいで、よく目が合うし、西山先生の前でだけ挙動不審になるからだ。

そのせいかは分からないが、最近少し先生が話しかけてくれることが減った気がする。本当に少しだけだけど。それでも、西山先生は優しいから、私が困っていたら助けてくれる。だから好きだ。