「先生、早く!」


お姉ちゃんは、白衣を着た男の人の腕を引っ張って、勢いよく病室に入ってきた。

遅れて看護師さんが1人入ってくる。


「自分の名前はわかる?」

「……熊谷 颯太(くまがい そうた)です」

「誕生日は?」

「5月20日」

「そーちゃん、私のことわかる?」

「琴海(ことみ)お姉ちゃん」

「そーちゃん! よかった!」


お姉ちゃんの目には涙が浮かんでいた。


「先生、ありがとうございます!」


みんなどうしたんだろう。


ぼくが不思議そうにみんなを見ていると、看護師さんが優しく教えてくれた。


「颯太くんは、頭を強く打っていてとても危険な状態だったの。病院に運ばれてすぐに手術をしたけど意識は戻らなくて、1週間眠ったままだったのよ」

「1週間…」


事故に遭ってから1週間も経っていたんだ…
どうしてこんなにも冷静なんだろう。

不思議だ。


「先生、またサッカーできるようになりますよね?」


ぼくがそう聞くと、みんなの表情が曇った。


「颯太くん、はっきりと言うね」


え……


「君はもう、サッカーはできない」


ハンマーで殴られたような衝撃がぼくを襲う。


そんなの……嘘だ。


「お母さん!」


嘘だよね……


「お姉ちゃん!」


サッカーができないなんて、そんなのありえないよ。


「ねぇ、誰か嘘って言ってよ!!!!!」


悔しい。

苦しい。

どうして?


こんなことになるなら、いっそのこと死んじゃえばよかったのに……