水の中で

校舎の一階は床上で膝ちかくまで水に浸かっていた。二階の廊下は片側に机や椅子が積み上げられ、人がやっとすれ違える幅の通路を、身繕いを忘れた男女が行き来していた。
 誠は手前の教室の戸口に立って見回した。
 机を片付けた床の大半に茣蓙が敷いてあり、その上に、老若男女雑多な人々が寝転んだり座り込んでいた。群れから離れ、立ち尽くしている人もいた。子供が人の間をぬって走り回っていた。
 この中から弘美を探しだすのは、と溜息を漏らした。
 ふと、バケツを下げた女が、訝しげに睨んでいるのに気づき、廊下に出た。
 廊下の突き当りに蓆が下げてあり、絶えず誰かが出入りしていた。仮設のトイレらしかった。その脇に若い男が立っていた。
 どこかで見かけた男だ、と近づきかけ、足を止めた。
 あいつだ、と隆は身を隠した。
 学部が違うが、あいつとは一度話したことがある。友人に煽られ、デモに参加する学生を勧誘していた時だ。デモは危険です、とあいつは言った。
 なぜ、あいつがここにいるのだ。
 考え倦んでいたら、下がった蓆を分けて若い女が出てきた。
 窶れているが、弘美だった。
 生きている。
 安堵の吐息を漏らしたら、あいつが、寄り添い歩きだした。
 なんだ。
 飛び出したい衝動を、歯を噛んで堪え、寄り添う二人を見送った。