リビングへ移動して私は床に、航はソファに腰掛けた。

航の顔は見えないしこう座ってしまったことによって気まずさはより確かなものになってしまったのだけど。




「………………」



「………………」





「なんで怒ってんの?」



しばらくの沈黙の後、珍しく不機嫌マックスで聞かれた。


仕事でもこんなに怒ることなんてないのに。




「怒ってるのは、そっち…」


「俺は、怒ってるっていうか…」



呆れ笑って言うのかな。そんな感じで返されてイラっとしてしまう。
私ってほんと短気。



「怒るよ…だって…」

「八つ当たりしたの?」


若干遮ったよねーーー。


「……誰に?」


つい嫌な感じが出てしまった。
私の悪いところだ。



「りんちゃんとつり目さん」


また、りんちゃん。




「…………」



「俺に怒ってるんじゃないの?旅行中断させるほど嫌な思いさせて。どういうつもり?」



誰さ、私の機嫌が原因で中止になったとかいうデタラメ教えたの。

最低じゃない?人のせいとか、信じられない。



「別に、私のせいじゃな…」

「八つ当たりなんてやめてよ、恥ずかしい」




っな……、……。



「は……?」



航に恥ずかしいとか言われる筋合いないけど?



「結を怒らせたのは俺が悪いけどさ。楽しませようとしてくれた先輩を裏切るのは違うよね?」



「だから!私のせいじゃないってば!思い込みで決めつけないでよ!」



勢いに任せて振り向いたら、予想以上に冷たい目を向けられていて少し萎縮してしまった。



「………………それ、あの2人にも言えるの?」


………………。



「せっかく見つけた居場所を自分から失くそうとしないで」


なに、居場所って。


優しいですアピールしちゃって。
言いすぎたからって手のひら返して。

自分だって有給使ってるはずなのに仕事だとか言っていそいそと帰ったくせに。

なんで私ばっかりみんなに怒られなきゃいけないの?


意味わかんないじゃん。
理不尽。不平等。みんなクソ。



「…私ばっかり悪者で」


「なに?」


「いいよね、航はモテモテだもん」


「なんのこと?」


「りんちゃんさんからチヤホヤされていい気になっちゃってさ!!
私の気も知らないでりんちゃんりんちゃんって!!
外見も中身も最悪な私の気持ちなんか分かんないよね!!!」


「はぁっ?」


盛大に鼻で笑われたんだけど。
いやいや、全く笑う要素ないから。


「高所恐怖症同士ゆっくり行こうって?手、繋いでたじゃん。べったり寄り添ってたじゃん!私とイチャイチャするの拒んでたじゃん!!」



「………………」



「それで?なに?私がそれに対して怒ったから全部私が悪いの?モテない私はモテモテの航がモテモテのりんちゃんさんに取られそうで怖かっただけなのに!!私にとってはたった1人の特別な人だったから、私ばっかりが好きみたいで恥ずかしくなって悔しかっただけなのに…!」



「………………」



「なんでみんな私を悪者扱いするの!?」


いつの間にかあふれていた涙は止まることを知らずどんどん溢れてくる。



「ふはっ」



なんで笑うの?


「なにがおかしいの?馬鹿にしてるよね?」


「それこそ思い込みで決めつけてるじゃん」


「は?」


「俺は手を繋いだ覚えもなければべったり寄り添った覚えもない。結が怒って先に降りたのを気にして、りんちゃんは怖くて足が震えても気丈に振る舞って『こうちゃんを独り占めしてたらゆーちゃんに怒られちゃうよね』とか『ゆーちゃんは危なっかしいからこうちゃんが見ててあげなきゃ転んじゃうよ』とか『こうちゃんとゆーちゃんが一緒に歩いてなきゃ意味がない』とか、ゆーちゃんゆーちゃんって結のことばっかり気にかけてくれてたんだよ」


「………………」


「気持ちが焦っちゃってりんちゃんが転んじゃったけど」



「……私も転んだんだけど」


「ちょっと擦りむいただけでしょ」


え、気付いてたの…?
それでなにも言ってくれなかったの?


「いや…そうだけどさ、一言大丈夫?くらい声かけてくれてもよくない?」


「それは悪かったけど、その時は俺もそれどころじゃなかったし」


「だから………おかしいじゃん…」


「なにが?俺にはやっぱり結が怒る理由が分かんないよ」


「航は私の彼氏なんだよね?どうしてりんちゃんさんの心配しかしないの?」


「…………もうキリないよね、このやりとり。過信してたのかな」


「……………」


「話せば分かってくれるって思ってた俺が間違ってたのかもね」


私も過大評価じゃないけど、航のこともっと完璧だと勘違いしてたよ。