職場恋愛

「待って待って待って待って嫌、嫌、嫌、嫌、嫌。無理。ねぇ止めて。誰か!止めて!まだ死にたくない!」


動き出したばかりのジェットコースターで騒ぐりんちゃんさん。

まだ登ってもないのに…。
本当に苦手なんだ…。


お隣の山野さんにしがみ付いたり突き放されたり、忙しそう。

私のお隣の航は怖いくらい真顔。
もしかして大丈夫なんじゃん?



後ろからは楽しそうな話し声が聞こえてくる。


「カメラの場所把握しとかねーと」
「あそこがてっぺんでしょ?」
「耳すましとけばアナウンス聞こえると思うんだけどな〜」
「落ちる寸前でも見つけれるかな」



なんでもいいけど、早く進まないかなー。
いや、進んでるんだけどね。
もっとスリルをちょうだい。



「待って。今登ってる?ねぇ、登ってるよね?」


練習用の短い坂を登るだけで目を閉じて堪えるなんて、なんか可愛いな、りんちゃんさん。
私もそういう風にした方がモテるのかな…。
なんか可愛げないよね、私。


「ぎゃぁっ!!」


りんちゃんさんの質問には誰も答えず、あっという間に短い坂を降りた。


「言ってよ!降りる時は降りますって!!ねぇ!」


山野さんの迷惑そうな横顔を見るのが楽しい。


「は!?また登ってる!?はぁ!?なんで!無理!長い!どんだけ登るの!?死ぬじゃん、先が見えないじゃん。落とされるじゃん、あたしたちここで死ぬよ、死にたくないのに!まだ!やりたいこと!たくさん!ある!嫌!もう止めて!無理だから!ねぇ!えええええ!」



長い長い登り坂を進むジェットコースター。
りんちゃんさんはどこでもよく喋る。



ガチャンと頂点まで登ったら、少し、まっすぐの道があって、その先は見えない。

ちらっと横を見ると、すごく高い。



「あっ、あった!あそこだ」
「余裕じゃん!なぁ!逢坂!」


後ろの2人がカメラの位置を確認して、島田さんが航に声をかけた。

けれど、反応がない。


パッと顔を見たら、彼は抜け殻と化していた。




「航!落ちるよ!魂抜けちゃうから!起きて!」

「いや、ゆーちゃん、起こさない方がいいんじゃない?」
「むしろ抜けてた方が怖くないんじゃね?」


「え」



時すでに遅し。

私たちの乗ってる物が、斜めになりました。



「…うっ」


隣から聞こえた食いしばる声と、前から聞こえた悲鳴はほぼ同時で、更に、私の体に航がしがみついてきたのも、また同時だった。



「ギャハハハハハハ!!!」
「男が女に抱きついてる!!だせぇ!!」


そんな航を見て爆笑するうるさい2人。


「痛ぇ!力入れすぎだろ!馬鹿!」


山野さんの手をガッチリ握りしめているりんちゃんさんを引き剥がそうと頑張る、携帯コーナーのリーダーさん。



言うまでもないかもしれないけど、誰1人としてカメラ目線でピースをしている人はいなかった。