職場恋愛

また喧嘩が始まったのは置いといて。


「航は乗れる?」


なんとなく不安そうな顔をしていたから聞いてみた。


「……無理」



なぜか爽やかな笑顔で、それも消え入りそうな声で答えた航。


不安そうな顔してるもんね。
うん、乗れないと思ったよ。


「結は乗れるの?」


「逢坂乗れねーの!?だっさ。男の恥だぞ」


「うるさい!今、結と話してんだよ」


「わ、私は乗れる…けど、別に、乗りたいわけじゃないから、その、えっと…」


「………乗りたいんでしょ?行ってきなよ。りんちゃんと撮影係やっとくから」


なんとお優しい神さま。



しかし。


「こうちゃん。乗れないなんて、冗談だろ?撮影係はいらねーからあれ、乗るぞ」


「いや、本当に…」


園内で1番『キャー』って言ってるジェットコースターを指差して航の腕を引っ張る山野さんに、渾身の力で反抗する航。

でも残念ながら力では勝てないみたい。


見るからに山野さん強そうだもん。



「ブスー、お前も乗れよ?」


「は、はい!」


「いや、ゆーちゃんじゃない」


え、でも今ブスって。
ブスは私しかいませんけど。


「ちょっとあんた最低。ゆーちゃんにブスとか言っていいわけ?こんっなにかわいいのに、あんたもしかして目ん玉ないの?」


つり目さんとの喧嘩を放り投げてズカズカと歩み寄ってきた。



「だから、お前だよ。このドブス!いいから早く並べ」


「乗らないってば!!万が一ジェットコースターが壊れてあたしだけ空を飛ぶようなことがあったら、助けてくれるわけ?」


「頭大丈夫か」


「俺、いいこと思いついた〜」


山野さんとりんちゃんさんの夫婦漫才をよそに、つり目さんがニコニコしながらやってきた。


「あそこに撮影ポイントあるだろ」


つり目さんが指を差したのは、ジェットコースターの落下途中にあるカメラ。


「そこでカメラ目線でピースできた人に、できなかった人が100円渡す」


…絶対無理。
カメラがあるところは落下途中だからそれこそハイスピードで1番楽しいところ。
カメラなんて気にしてる余裕ないよ。


「やっすいな。せめて500円」


…絶対無理なのに、山野さんは乗り気なようだ。


「それって、4人ができてたら全部で2000円払わないといけないってこと?
そんなんピースするしかなくね」


島田さんも乗り気なようで…。


「…じゃあ…あっちの軽めのやつにしません?」


「さんせーい。こうちゃんナイスぅ。
公平な勝負を求める」


ただ、反対派もいるようで。


「お前らが支払う人数が増えるだけだと思うけど?」


「げっ」


山野さんに論破されてしまったお2人。
お労しや…。


「こっちでもそんな変わらないですよね…」


だがしかし、航はまだ諦めていなかった!
どうしても乗りたくないらしいな…。

私はどちらかと言うとスリルがある方が好きなんだけどな。


「変わらないから楽しい方乗ろうぜ」




こうして論破された2人も一緒に乗らざるを得なくなりましたとさ。