今日も綺麗に完食してくれた奏太は2本目のビールとカマンベールチーズを持って来た。
足りなかったかな?
「明日遅番だろ?俺も中番だから飲もうぜ」
「ご飯少なかった?」
「全然。未来と飲む酒は別腹」
何よ、ニコニコしちゃって。
「國分さん、明日でいなくなるね」
私も一緒にビールを飲みながらボソッと呟いた。
「あいつさ。馬鹿だよね」
新たに加わったナッツ系のおつまみをつまみながら奏太が言う。
奏太は嫌いなんだよね、國分さんのこと。
あたしはあんまり接点ないけど印象は、良くはない。
「ねぇ、なんで嫌いなの?怒鳴るから?偉そうだから?」
他の部署のマネージャーなのに、ここまで嫌うって普通じゃなくない?
「馬鹿だから嫌い」
はぁ?
そんな理由なの?
感じ悪〜い。
あたしが國分さんの話なんか出したからタバコを吸い始めてしまった。
体に悪いって言ってもやめてくれないんだよね。
あの会社に喫煙者が多いのは絶対國分さんとか、怖い人がいっぱいいるからだと思う。
ストレス社会って嫌ね。
「あの人、本当はすごい人なんだよ」
「え?」
煙を吐いてうつむきながらポツリ。
「なのに馬鹿しまくって降格、降格、退職って。馬鹿だろ」
いや、馬鹿としか言ってない。
「本当はすごい人って?責任者だったから?」
もう少し分かるように話しなさい。
「責任者になったのもすごいけど、あの人、根はクソみたいに優しいんだよ。
優しい人ってたくさんいるけど、ただ優しいだけじゃ舐められやすいんだよね。
あの人はそうならないために必死で優しさを隠して隠して隠しまくって部下を守ったり育てたりしててさ。
あんなクソみたいに怒鳴るだけじゃ当然辞める人間もいるし、優しさが微塵も伝わらなくて嫌う人間も多いだろうね。
優しい人が、優しい自分を隠して下の人間を教育するのって、まじで気が狂いそうになるくらい難しくて、自分が分からなくなることもある。
本当は優しく教えたいのに。
本当は違う言い方ができるのに。
自分のためにも、部下のためにも、あえてそうしなかった。
あの人はそんなことを10年以上やってたんだぜ。
…俺には到底できない。
すごいよ、國分さんは」
嫌いな人のことでもこんなに褒められるなんてすごい。
ただただ感心する。
でも、続けて話した内容を聞いて納得した。
「だから俺はあいつが嫌い。
優しくしたいなら優しくすればいいのに。
不器用なのかなんなのか知らないけど、隙を作らないで気を張り続けた結果がこれって。ただの馬鹿だろ」
「ねぇ。
それはつまり尊敬してるんじゃないの?」
思ったことをストレートに聞いた。
「言っとくけど、俺は嘘つきが大嫌いだからな。
嫌いなものは嫌いなんだよ」
1本目のタバコを吸い終えて、ビールをゴクゴクと飲んだ。
「…ふーん」
素直じゃないんだから。


