side 航


結が國分さんに呼ばれてから数十分後、今度は俺が呼ばれた。

何言われんだろ。


疑問を抱きながら事務所に入るとコーヒーを飲んでくつろいでいる國分さんがいた。


「荒木のこと振ったんじゃなかったのか」


静かに口を開いた國分さんに若干違和感を覚えた。
こんな話し方をする人だったっけ、と。


「はい。1度は断りました。でも惚れてしまって」


「別に付き合う付き合わないはどうでもいいが、それを周りに知られたらどうなるかってことくらい分かっただろ」


なんだろうこの妙に落ち着いた話し方。


「隠そうとはしたんですけど…。先輩たちが鋭くて」


「…荒木を異動させる」


……………。


「………はい」


國分さんの性格ならこんなことを言うくらいなんともないはずなのに、言いづらそうに言うなんてどうしたんだろう。


「それと」


なんとなく暗い表情のように見える國分さんは重たい口を開いた。


「………」


「俺は謹慎処分を食らったからしばらく店長代理が俺の席に座ることになる」


「………」


「俺が言えることではないが、どうか、俺が戻るまで同じメンバーで残っていてほしい」


「………」


「家電には既にリーダーに安井がいるけど、俺が戻るまで逢坂もリーダーとして働いてもらいたい」


「どれくらいいないんですか?」


「…分からない。無期限の謹慎だ。ただでさえ降格させられているのにあんなことをしたんだ。罰は相当重い」


「……………」


すっと立ち上がった國分さんはまっすぐ俺を見た。


「逢坂、あの時は本当に申し訳なかった」


俺に頭を下げる國分さんはどれほど屈辱的な思いでいるんだろう。

電話でも謝られたけど、1ヶ月以上も前のことだし、今更処分を受けるのはおかしい気がした。


「國分さん、頭あげてください。もう前のことなので全然気にしてませんし、あれは國分さんの責任じゃありません」


タイミングが重なっただけ。


だからどうか、この人の処分が軽くはならないだろうか。
國分さんだって、店のために下の人間を叱るんだから、それを分かってあげないといけない。

責任者からマネージャーになったのもプライドズタボロでストレスが溜まるはずだし、俺みたいな使えない人間がそばにいたら当たってしまうのも分かる。


全部を國分さんに押し付けるのは違うだろう。

なんでこう、理不尽なんだろうな。
大人って。