「友達って言ってたけど、やっぱり気になる?」
「いや、べつに……、春佳は着ないの?」
ふいに彼が私に尋ねる。
「え? 私?」
聞き返したのに彼は、私ではなくご飯を食べながらテレビを観ている。返事しなくてもいいのか、放っておこうと思っていたら、
「明日着たらいいのに」
と、ぽつり。
ほぼスルーしたのは浴衣を着たくないからじゃない。明日花火を観に行くのが本気だと実感してしまったから。
「私はいいよ」
「あのワンピースは? 去年買った黒の……」
去年の夏、家族で旅行を計画していた。和佳が幼い頃に何度か行ったことのある温泉宿へ。その頃に一目惚れした黒いワンピースは、旅行に着て行くという理由で買った。
だけど旅行の計画は彼の仕事で消えて、ワンピースはクローゼットに眠ったままになっていた。
私でさえ忘れかけていたのに、よく覚えていたなぁ……と感心。買った時に一緒に居たからかな。
「あのワンピース、いい感じだと思う」
ぼそっと言って、彼はご飯を頬張る。
それきり彼は何にも言わないから私も話さなかった。

