「芳田さんも旦那さんとふたりで行ったらいいのに……晩御飯食べて花火観て……素敵ですよ?」
有希ちゃんは視線を遠くへと向ける。
何を想像しているのか手に取るようにわかった。緩みきった顔からは、有希ちゃんと彼氏の甘い一日がはっきりと滲み出ている。
有希ちゃんは二十四歳。まだまだ若いから羨ましい。私はもう四十二歳。何もかもが保守的になってしまう。
最近彼と出かけるといえば買い物ぐらい。彼は車の運転と荷物持ちを担当してくれるから助かっているけれど、花火に浮かれるような年じゃない。
「行かない、家で涼んでる方がいいよ」
「でも、和佳(わか)ちゃんは彼氏と行くんでしょう?」
「彼氏なんていないよ、行くのか聞いてないし」
「言わないだけです、高三なんですから彼氏ぐらい居ますよ」
有希ちゃんが興味津々の笑顔で不安を煽る。
ひとり娘の和佳は高校三年生。中学生の頃までは友達と観に行っていたけれど、ここ二年は行っていない。今年はまだ何にも聞いていないけれど、どうするんだろう。
今まで和佳が男の子の話をしたことはない。あまり興味がないものと思って安心している。
まだ彼氏なんて居なくてもいいと私は思う。

