この時期になると職場では、『花火に行くの?』は挨拶代り。『今日は暑いね』と同じ意味だろう。


「芳田(よしだ)さんは花火行かないんですか?」


きらきらと目を輝かせながら私の答えを待っているのは後輩の有希(ゆき)ちゃん。期待しているのは私の答えではないことは明らかだ。


「行かないよ、有希ちゃんはどこで観るか決まったの?」


有希ちゃんが花火を観に行くことは随分前から聞いていた。付き合い始めて間もない彼氏と行くんだと、今みたいな嬉しそうに顔を綻ばせながら教えてくれた。


「はい、彼がこっそり有料席を取ってくれてたんです。昨日聞いてびっくりしたんです」


大きく頷いた有希ちゃんは、丸くて大きな目をさらに見開いて声を弾ませる。思っていた以上の反応に驚いて、私まで目を見開いてしまった。


「いいなぁ、間近で観られるんだね」


有料席で花火を観られることも、サプライズを用意してくれる彼氏がいることも羨ましい。抽選で当たったのならともかく、私には到底縁のないサプライズだ。