星天ノスタルジア


彼は口元を緩ませて、ゆっくりとグラスを仰ぐ。そのまま、何も言わずにテラスへと振り向いてしまった。


ずいぶん陽が落ちて、夕空は黒に染まりつつある。テラスの向こう側からは花火を待ちわびる賑やかな声が聴こえてくる。
もうすぐ花火が上がる。


本当にあのレストランの梅酒なのか、彼の冗談だったのか。それとも私の勘違いか思い込みだったのかもしれない。あれからもうずいぶん年月が経っているから、はっきりと同じものだと言い切れる自信もない。


だけど彼は、もう何も話そうとしない。


もういい。気にするのはやめよう。


テーブルに並んだ料理へと気持ちを切り替えた。真っ白なお皿に盛り付けられた料理はどれも綺麗で手をつけるのがもったいなく思えるほど。次々と料理が運ばれてくるたびに胸が高鳴ってしまう。最近ふたりで食事に出かけることなんてなかったから余計に新鮮。


写真を撮り忘れていたことに気づいたのは、ほとんど食べ終えてしまってからだった。せっかくの記念を残しておきたかったけれど後の祭り。