「あの梅酒によく似てるね」


意図しない言葉が溢れた。
何かしら声を出さないと、どこかへ意識を持っていかないと落ち着かなくなりそうだから。


ひと口含んで鼻から抜けていく香りを感じながら、グラスへと視線を落とした。グラスの中で揺れる黄金色がゆらり滲んでいる。


「あの梅酒だよ」


彼もグラスに視線を落としたまま答える。


「そんなわけない」


だって、あの梅酒はもう飲むことはできない。


彼と付き合い始めて間もない頃、一緒にレストランで飲んだ梅酒。オーナーの自家製だという濃厚で柔らかな味は今までに飲んだことのある梅酒とは違っていた。


和洋折衷の創作料理も美味しかったから、すぐに私たちはレストランのファンになった。住宅地の中にあるレストランは、小さな看板を見逃してしまうと普通の住宅にしか見えない。まさに隠れ家的なお店だった。


十年ほど前にレストランは閉店してしまったけれど、そうじゃなければ今も通っていたかもしれない。