彼は観念したように小さく息を吐いた。
視界の隅に映り込んだウェイターが、こちらへと向かってくる。
「本当は彼と一緒に応募したけどダメだった、だからここで」
照れ臭そうに笑う彼を見ていたら、胸の奥で大きな波が揺らいだ。
「いつの間に……」
それ以上の言葉を遮るようにウェイターが私たちの間に入り込む。テーブルに置いた小さなグラスの中には深い黄金色が輝きを放ちながら揺れている。晴天の下の海原のように。
「とりあえず飲もう」
彼に促されてグラスを手に取った。指先に冷えたグラスの感触が心地よくて渇いた喉が早くと急かし始める。
「来年二十年、ありがとう」
彼は微笑んだ顔を隠すようにグラスをかざした。
来年私たちは結婚して二十年になる。こんなところで祝うことになるなんて思ってもみなかった。
それよりも、まさか彼が覚えていたなんて。
そういうことには無頓着な人だと思っていたから、対応策が浮かんでこない。
彼に促されて、ためらいながらグラスを口へと運んだ。

