もしも本当に行き先がホテルなら港周辺で座り込まなくてもいいだろう。だけどホテルまでバスを利用するだけなら……
不安と罪の意識で頭の中がいっぱいになってきた頃、バスはホテルの玄関に到着した。港までの道路は混んでいたはずだけど、そんなこと全然気にならないうちに。
彼はバスを降りて、何も言わずにホテルの中へと入っていく。
彼の後を追って到着したのはホテルの二階にあるカジュアルレストラン。広々とした空間の向こう側には港に面した大きなテラスが広がっていて、花火を観るには絶好のロケーションだ。
こんな場所、絶対に予約無しで入れるわけがない。彼が予約をしていたとしても、今日は特に値段が高いに違いない。彼が思いつきでここに来たとは到底考えられない。
「予約要るんじゃないの?」
「大丈夫だから」
彼の返事はひと言だけ。
それが嘘ではないとわかったのは、ちゃんと席に案内されたから。しかも港が一望できる見晴らしの良いテラス側の席だった。
席に着いた彼は、私と目すら合わせようとしてくれない。私が追求するのを避けるように澄ました顔で窓の外を眺めている。

