てっきりショッピングモールに行くものと思っていたから、港まで行くとなればそれなりに心の準備が必要になってくる。
せっかく新しいワンピースを着たというのに、港周辺で座り込んだりしたら汚れてしまわないか。帰りは渋滞に巻き込まれて遅くなってしまうんじゃないか。
出てくるのは不安ばかり。
案の定電車は混んでいるし、いろんなことを考えてしまって落ち着かない。
電車に乗って十数分、人波に流されるように電車を降りた。港周辺まではさらにここから歩かなければならない。
すると彼がきょろきょろと周りを見回した。誰かと待ち合わせでもしているような仕草を不思議に思っていると、ふいに歩き出す。
「こっちからバスが出てるから」
と言って彼は路肩に停まった小型のバスへと歩いて行く。車体の側面に『港ホテル』と書いてあるからホテルの送迎バスだろう。
「待って、ホテルのバスだよ?」
「いいから乗るよ」
本気でホテルに行くつもりなのか、それとも港まで乗せてもらうつもりなのか。さすがにそれはマズイだろう。
彼の真意のわからないままバスに乗った。

