「今宵は綺麗な月じゃ。」
一人の老人が酒の入ったボトルを片手に空を眺めていた。

老人は殺された妻を思い出し、涙を流していた。
「おじいちゃん、泣いてるの?」
涙をぬぐって声の方へ視線を落とした。
五・六才の女の子が太ももを叩いている。
どこかに隠れていたのだ
ろう。
「腹へってるか?怪我はないか?」
心配になって話しかけた。
しかし、返事をせず、うつむいている。
「辛かったのぉ。安心せぇ。」
そういって女の子を抱きしめた。
苦痛を味わっている自分を慰めるように。

女の子は肩を震わせている。
相当怖かったに違いない。
心優しい老人は女の子の頭を優しくなでて話しかけた。
「もう、震えなくても大丈夫じゃ。」
その言葉に女の子が顔を上げた。
「大丈夫なのかい。ボケ。」
その顔は焼けただれた中年男になっており、大きな口を開けて老人のお腹を噛みちぎった。
「ぎゃあああ!」
老人の悲鳴が合図となって村中がパニックに陥った。

昔の記憶が村人達に蘇る。
止める術は知っていた。
だが、成功確率は3%。
ただ、逃げることしか出来なかった。