目を凝らすが、何も居ない。
夫は気持ちが焦っているから聞こえたんだと気にせず階段を駆け下りた。
夫がリビングに目をやると、妻が一人で体を必死に振っている。
状況が理解出来ない。
階段の下で頭を悩ませていると、階段の上からロケットのようなものがこっち目掛けて飛んでくるのが見えた。
体を向けた時には遅かった。
ロケットではなく、両手を頭上で合掌(がっしょう)した人だった。
その人の手は息子の胴体を貫通し、夫の肺に突き刺さった。
死に際にみた妻はノコギリ包丁を取り出し、自分の首を切り裂き、包丁を窓ガラスに投げつけて息絶えた。
夫も数秒後、力尽きた。

そう、まだハデスの復讐は終わっていなかった。
村人達が気を緩ませた時に幻影を見せ、命を奪う。
ハデスの巧妙な罠だったのだ。
子供の胴を貫通し、男の肺に刺さったのは人にみせた大型の船の模型だった。
二階の階段の踊場に飾ってあるのを利用していた。

翌朝、村人達はハデスの恐ろしさを痛感した。

犠牲者、五人。
残り、三十七人。