窓を開けて換気をした。
ふと焼死体に目をやる。
妻はある異変に気がついた。
焼けて死んでいるのに布団が焦げていない。
原因を調べる為、ベッドへ近づいた。
ダンッ!
床を叩くような音がベッドの下から聞こえた。
恐る恐るかがみ、下を覗き込む。
「ひぃっ!」
妻は短い悲鳴を上げて逃げ出した。
ベッドの下には顔の大きい老婆が笑みを浮かべて床に張り付いていた。
逃げ出した妻を驚異の速さで追いかけ、背中に飛びかかった。
体を左右に振り、老婆を振り落とす。
それは一瞬の出来事だった。
振り落とした時に老婆の鋭い爪が妻の首を深く引っかいた。
笑う老婆の爪は鉄のように硬かった。
爪には赤く染まった、筋であろう紐状の肉片がこびりついていた。
妻は首から血を吹き出し、床に倒れた。
ピクピクと体が痙攣(けいれん)している。
老婆はガラスを割って外へ逃げていった。

下で妻の悲鳴が聞こえ、息子を抱いて階段を下りていた。
ミシッ。
さっきいた部屋から床をきしませる音が聞こえた。
夫は息を殺し、二階に目をやる。
ミシッ!ギシッ!
足音はゆっくりこっちに近づいてくる。
ミシッ!ミシッ!ガタン!
足音は階段の手前で音を立てて止まった。