「そ……の、おれの」


「ん?」


 リュータが視線を泳がせる。しばらく彼が逡巡するのを黙って待っていると、観念してぼそぼそと続けた。


「おれの、大切なひと……のこと、だと思う」


「……あー、そう、か」


 好きな子に早く告白しないと、レツが横取りをすると脅しをかけているんだろう。後押しをしているだけのように見えるが、当事者にはそうは思えないのかもしれない。


 レツが手を出せる子。ということは、この世界の女の子なのだろうか。好きな異性がいるかもしれないとは思っていたが、それもてっきり自分の知らないリュータの通う中学の同級生かと思っていた。


 彼と、この世界に居る限りは、リュータを手放すのはまだ先だろうと漠然と、考えて。


「でも、言えないよ。困らせるの分かってるから」


 最初から言うつもりなんてない。けど、その人が他の人と仲良くなるのを黙って見ているだけでいられる自信がない。


 波風に掻き消えそうな声で本音を打ち明けるリュータは、知らない顔をしていた。