「悪い。……変な夢見てた」


 変な夢、だったと思う。会社の同僚というだけでそれ以上でもそれ以下でもない友人止まりの目の前の彼が、眠っている間よく出てきていた。


 気付けば会社のデスクから覗いた窓はとっくに真っ暗どころか明るんでいて、どうやら残業して作業している間に居眠りからの朝帰りコースに突入していたようだ。シャワー、シャワー浴びたい。


「ふーん。なあところでさ」


 秀がこちらのデスクに行儀悪く乗り上げて、顔を近付けてきた。オレ今涎とかデスクの跡とか顔についてるかも。あんまり見ないでほしい。


「こんな人使い荒い会社二人で辞めちまおうぜ」


「……それで、どうするんだ?」


「起業すんだよ、起業。俺に良いゲームのアイデアがあるんだ。俺たちで次世代ゲームの看板タイトル作ってやるんだ」


 誰にでも同じ言葉で誘いかけていそうな様子ではなかった。夢を語る彼の話を聞きながら、デスクの上の書類を片づける。


「たぶん今とあんまり変わんねえ、それ以上に仕事量的には大変だろうけど。でも俺さ、大護とならすげえの作れるんじゃないかって思っててさ」


 デスクから軽く跳び降りた彼が、籠もりきったオフィスの窓をからりと開けた。朝焼けが寝起きの目に染みる。


 それから自信ありげな彼の笑顔が、染みた視界にまぶしく映った。理由は分からないけれど、ほんのすこし。


「なあ。俺と、ちっとだけ、世界変えてみようぜ」


 ほんのすこしだけ、見とれてしまった。