「ユウジ様、よくご無事で!」


 駆け寄ってきたノアに曖昧に笑みを返す。ノアには見られていなかったようだ。セーフセーフ。あとは見られたヴェルターからどう記憶を奪うか。後頭部殴るか。勇者の剣で。


「貴様らが居ない間にあらかたこの国の内情は調べておいたが、オレやこいつではお手上げだったな」


 こちらの殺気をスルーして、ヴェルターがノアを指す。自分たちが北へ飛ばされていた間、追いかけねばと慌てふためくノアをうまく言いくるめて先に国内の調査を始めたのは彼の判断によるものだったようだ。後頭部殴るのはよしておこう。


「宿にも従業員がいない状態だ。町にいるのは呪いとやらを受けて余命いくばくかの者か、国外に逃れられない事情のある者だけ。貴族はほとんど国を捨てて逃げているな。

使者を送ってきた王家直属の占い師一族には、「大賢者」が不在だったからな。まだ話は聞けていない」


 つまり、一番最初に話を聞くべき相手とはまだ接触していないということか。ここまで道案内をしてくれた使者はといえば、先にそちらに戻っているようである。


 扉の開け放たれたまま誰もいなくなっている宿の一室を拝借して、先に荷を解いていた二人とは反対側のベッドの上で荷物を下ろした。


「だが、呪いの元凶らしい情報なら聞いたな」


「原因特定できたってことか?」


「いや……真偽は分からん」


 ヴェルターの話によると、東国に呪いが蔓延しているのは天罰なのだとまことしやかに伝わっているらしい。