入れ替わり騒動と改造魔法でMPを使い切っていたからか、身体がやけにだるかった。

普段ならさっさと降ろせとリュータの背中から飛び降りていたところだが、今回はヴェルター達との合流まで彼に甘えようと思う。

それ以上の意味はない。断じてない。


 中学の三年間使い古された黒い学ランは、襟元が擦り切れている。今は見えないが袖口も。

自分の知らない「学校での」リュータとずっと一緒だった制服は彼のにおいがして、なんとなく頬を寄せたくなった。

目を閉じればまたそのまま眠ってしまいそうだ。ここはきっと、世界一安全な場所。彼の太刀打ちできない敵がやってくるなら、それは世界の終わりを意味するだろう。どこに逃げても仕方ない。


 絶対的な安全が約束されている場所ってこんな眠くなるものなのか。落ちる瞼に小さく笑う。


「腑抜けた顔だな」


「うおっ!?」


 突如頭上に降ってきた第三者の声に思わず退けぞった。背中から落ちかけて、リュータの腕によって頭からの落下はどうにか阻止される。笑いを堪えるヴェルターの顔で、完全に目は覚めた。


「あ、ユウジ。合流できたよ」


「もっと早く言え」


 合流してから言うな。待っている二人が見えてきたら声くらい掛けろよ恥ずかしい。うわ今めっちゃうっとりしてた気がするやめろ忘れろ。


 リュータの背中から降ろしてもらっても、何故急に自分が不機嫌になったのか彼は分からなかったらしい。首を傾げている。本人に見られなかったのは不幸中の幸いである。