リュータが休んだのを確認して、念のため催眠魔法を彼に重ね掛けする。準備が整えば、次は師匠と脱出魔法改造の作業だ。


 ついでに使用済みコアスクロールと市販のスペルスクロールもいくつか用意して、大賢者オリジナルスペルスクロールの作成も提案してみることにする。


 がらくたに魔法を込めて生計を立てていた時期もあったらしい師匠はそのアイデアに乗ってくれた。言われる通りの魔法の構成を組みながら、手元からは視線を逸らさず隣で指示する師匠に声をかける。


「師匠さ」


「おう」


「その……ダイゴさんとはどういう関係?」


「直球だな。なんだ藪から棒に」


 この話を持ちかけることも、予定通りだ。師匠は術式の校正指摘を続けつつ、話半分に会話に答えてくれる。


「あそこまで先代勇者のこと聞かされりゃ気にもなるだろ。その……恋人とか、だったりする?」


「さあなあ……あいつがどういうつもりでオレに手出したのか、そういや結局聞かずじまいだわ」


「手」


「おい、そこ座標より先に読み込み開始の一文入れねえと動かないぞ」


「手、出し、たって」


「ああ? まあなんだ、そのへんは流石に教えてやんねえぞ。おまえさんも男同士のあれそれなんて詳しく聞きたかねえだろ」


「……一緒に暮らすって、まさか」


「んー、いつか帰っちまうの分かってる相手とする約束じゃあねえよなあ」


 あの頃はオレも若かったよ。彼が肩を竦める。


「んで、いつか手放すのが分かってる相手とする約束でもねえな」


 期待させればそのぶん、叶わなかった時のダメージでかいし。へらへら笑う彼を横目に、コアスクロールに魔法を込める作業の手は完全に止まってしまった。……正直、これは想像していなかった。


「今でも」