勇者ダイゴの全てを知りたい。その想いは執着にも似ていた。酒の飲める彼と旅の途中、安っぽい酒屋で飲み交わすことも多かったが、ある日うっかり、旅仲間としての一線をわずかに踏み越えてしまった。


 異世界からやってきたダイゴは故郷では、かなり雇用環境の劣悪な職場に勤めていたらしい。

人間と魔人族という種族差別のない世界のはずのそこで、話を聞く限りだと昼も夜もない奴隷のような就労をさせられていた彼は勇者としてこの世界に呼ばれたことを楽しんでいた。


 ことあるごとに冒険の終わりに元の世界に帰らなければならないのが憂鬱で仕方ないと冗談めかして笑っていた彼に一度、言ってしまったことがある。


「そんならさ、もう帰んねえで、ここに住んじまえばいいんじゃねえ?」


 最早半分口癖のようになっていた「帰りたくない」という愚痴にこちらが乗ってくるとは思わなかったのだろう。ダイゴはきょとんと目を丸くして、それから苦笑した。


「いいな、それ。おまえと二人で、どっか家でも借りて住もうかな」


「おう、いいんじゃね……いやいやなんでナチュラルにオレがおまえと同居することになってんだよ」


「あれ、嫌か?」


「……嫌、じゃ、ねえけど。急すぎんだろ」


 お互いに本音を打ち明けることのない、気まぐれに触れるだけの関係を持つようになってからずいぶんな時間が過ぎた頃のことだった。

言葉こそなくともそれ以上の想いを向けてくれているのかもしれない、この時、そんな期待を抱いてしまった。