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 あの日、不思議な黒い服装で自在に剣を操る勇者に近付いたのは、単なる好奇心だった。


 そのころの自分はそれなりに魔法の細工が得意なだけの一般市民で、人間優勢の時代、どれだけ努力しても一定ライン以上に出世のできない魔人族の生まれを嘆いて、道ばたのがらくたに魔法を込めただけのマジックアイテムを売っては日銭を稼いで飲み暮らす生活を続けていた。


 見た目は普通の体格をしているのに、その腕で操るには大きすぎる大剣を振り回す勇者に興味が湧いて、ただの飲んだくれだった自分は昼間から酒を呷った勢いで彼に接触したのだ。


「兄ちゃん、その得物でっかいねえ。その体のどこにそんなん振り回す力隠してんの?」


「うわ酒くさ」


 思いっきり正直に勇者が顔をしかめたのが酔っぱらいには面白くて、食らえアルコール臭、とその横顔に息を吹きかけてやった。

後々素面で思い返せばなかなかめんどくさい絡み方をしたものである。

ぎゃあ、と声を上げた初対面の彼と二人で笑い合って、それから勇者は笑い混じりに答えを出してきた。


「この世界はいいよな。仕様さえ分かってれば、ちょっと細工するだけでスーパーマンにだってなれるんだからさ」


 それは自分の最初の疑問に対する答えであって、謎かけでもあった。

生来小難しいことを考えて一人で結論を出しては満足するのが趣味だった自分は趣味が高じて魔法使いになったのだが、その性分をうまくくすぐる言い回しにずるずると引き寄せられていったのだ。


 いつの間にか勇者ご一行の仲間に加わって、魔王討伐の旅に参加することになって。

謎多き勇者は秘密をもったいぶることなく、出身から元々の職業、歴代の恋人の数までこちらが訊ねたものはすべて答えてくれた。

それでも自分にはまだ彼が謎のかたまりに見えて、着々と彼に傾倒していくことになる。