【BL】お荷物くんの奮闘記

 上着がはだけ、シャツの中に彼の手が差し入れられる。


 両腕が使えなくとも、単純な攻撃魔法なら使用可能だ。問題はそれが魔王級の力を未だ持っていると思しきレツに対して通用するかどうか。

先ほどの戦いでMPを半分ほど消耗していて、大技は出せそうに無い。ここから斧が放られた場所までなら、レツの速さであれば目測二秒で武器を回収しこちらに切りかかることも可能だろう。


 魔法の一発目が効くとは思わない方がいい。身体の上からは退いてくれるだろうが、制限時間は二秒。両腕が使えない状態でこちらが体勢を立て直して二発目の魔法を繰り出せるか。難しそうだ。


 あとは地属性魔法でこのフロアに高負荷をかけて彼を一時的に動けないようにするか、と思いかけて、既にマウントを取られている状態でそれをやってしまったらいくら術者対象外とはいえ自滅行為であることに思い至る。一緒に潰れる。


 レツに当てるつもりで撃つのではなく、周囲のどこかに撃って彼だけ隔離できないだろうか。


 素肌に彼の舌が触れる。怯えるふりで顔を逸らし、彼の背の向こう側に何があるかを確認する。

大振りの柱が二本。人魚型魔物の骸の山。それからどこかから流れ込んできているらしい水辺に、こちらはかわいらしい少女な方の人魚像。等身大サイズだ。

レツにぶつけようとしていると見せかけて背後の障害物を狙うには、どの角度で何に向けて撃つべきか。


 直線に倒れてくるであろう柱のうちの一本に狙いをつける。


「離、せ……!」