「……大賢者様。よろしければ自分も、お供させてはいただけませんか」


 それまで口を挟まず静かに控えていたノアが顔を上げる。


「そりゃありがたいけど、他の奴らここに残して大丈夫か?」


「このような事態に備えて、留守を任せる補佐は既に決めてあります」


 用意の良いことだ。そういうことなら頼む、とノアの方へ向き直って、ひとつ付け加える。


「あと、条件っていうか、頼みがあるんだが」


「なんなりと」


「大賢者様とかじゃなくて、名前で呼んでくれよ。オレはユウジ、だ。できれば敬語もやめてほしいけど、難しかったらそれは追々で」


 どうも従者然として来られると、自分が彼の尊敬する大賢者本人ではないことに罪悪感を覚えてしまってよろしくない。だいいち自分のような一般市民的外見の男に美形が従っている様子など、街中では目立ってしょうがないだろう。


「承知しました。ユウジ様」


 やはり敬語の改善はすぐには難しいようだ。大賢者様呼びでなくなっただけでも大分ましなので、とりあえずはこれでよしとする。


「今日は出発の準備でもして、明日発つんでいいか?」


「部下に話しておくこともある。明日になるなら、それで構わん」