【BL】お荷物くんの奮闘記

 ユウが肩を叩く。水路に流れてくる水は、水というより……、


「お湯になっちゃったわね」


 足湯できそう。気を遣ってか、僧侶が付け加えてくれた。



 中央の扉に戻ると、開けた先は奈落ではなくなっていた。


「落とし穴の下の方に床があったんだろうな。あの水車の力で床をせり上げて、歩いて渡れるようにするって仕掛けだったってことか」


 ユウが呟いて、荷物から林檎をひとつ取り出した。扉の先に現れた床の上へ転がして、大丈夫そうだなと頷く。


「なにしたの?」


「見た目だけ床で、実際は落とし穴の上に作られた幻覚でしたって可能性もなくはないだろ。念のためな」


 魔法が使えない空間に足を踏み入れるのだ。魔法使いが魔法を使えないというのは、前衛職が武器を奪われること以上に深刻な問題である。前衛職であれば素手でもある程度身は守れるが、後衛職はその戦闘スタイルからどうしても力や体力に乏しくなりがちであり、それは魔封じイコール一般人以下の実力に成り下がることを意味する。


 だから魔法使いは、そういった事態に遭遇する確率を下げるために頭を使うのだ。