見るからに気難しく誰も寄せつけないタイプならまだまし。わかりやすい。でも菅波は人当たりがよくて無害そうだから、たちが悪い。
 気を許して一定距離まで近づいたところで牙をむく。安易に手を伸ばしたら怪我をする。
 かわいい後輩を被害に遭わせたくなかった。

「廊下で立ち話もなんだから、また後で」
「ああ」
「八木原さん、ちょっと聞きたいことがあるから来てくれる?」

 瑠衣を呼び、ICカードリーダーで出勤手続きをして、ずんずんと自席に向かう。
 課長ったら事前に教えてくれていれば、心の準備もできたのに。これから年度上期の案件も立ち上がってくるから、人手が必要なのは確かだけれど、どうして――。

「話って何ですか」

 純真な目で聞かれてうろたえた。菅波から瑠衣を引きはがすための方便だった。

「えっと……さっきの話、みんなでお花見とかしたい? 今年はもう間に合わないけど、バーベキューとか登山とか、夏になったらビアガーデン行ったりもできるし。レクリエーション的な」
「登山……はあれですけど、まぁビアガーデンがぎりぎりじゃないですか。うちの課、消極的なメンバーが多いですもん」
「みんな忙しいものね。お子さんがいる人は特に」
「でも菅波さんの歓迎会はしないとですね」
「そうね。今なら案件も落ち着いてるし」
「日程調整しましょうか。歓迎会シーズンだからいいプランとかあるかもしれません」
「お願いしていい?」
「はい。まずは主賓に何か食べられないものがないか聞かないと」
「頼りにしてるわ。よろしくね」
「はい、嬉しいです」

 瑠衣はわたしを慕ってくれている。仔犬のように天真爛漫で、おっちょこちょいなところもあるが、同じミスを何度も繰り返すことはないし、へこたれない。何より裏表のない性格で、話していると落ち着く。
 やがて課長が出勤してきて、課会やるぞー、とわたしたちに招集をかけた。




「ひとまず菅波は、顧客への顔見せも兼ねて会田が行く打ち合わせに同行してもらおうと思ってる」
「わたしの、ですか?」
「問題ないよな?」
「……はい」

 承諾したものの、課長の意図がわからない。アドバイザーはつけないって言ったくせに、これじゃわたしが菅波の指導担当みたいになってしまう。そもそも関わりたくないのだと突っぱねることができたらどんなにいいか。