「メイベルは努力家だから、焦らなくても必ず魔法を上手く使えるようになるよ」
そんなルキのありがたい言葉が、私のやる気をふつふつと駆り立てる。
「よーしっ、じゃあ今から火の魔法でもやってみようかな!ルキ、少し離れたところから見ててね」
「うん、いいよ。やってごらん」
ルキが私の前から2メートルほど後退したのを確認たあと「神より与えられし力よ、我が糧となれ。その力を今解放するっ‼」と、両手を高々と頭上へ伸ばしながらはつらつとした声で詠唱をはじめた。
私もルキみたいに、野球ボールくらいの大きさの火の玉を出現させてみたい。
天へ掲げた両手のひらから、火の玉が5つ、ぼうっと夜空へ浮かび上がるイメージ。
いざ魔法を発動させようと右手のひらにグッと力を込めたとき。
「おーい、こんな時間にそんなところで何をやっているんだ」
フォルスティア学園の方角から、陽気な低い声に不意に呼ばれた。
魔法の詠唱を中断してルキと同時にはっと後ろを振り返り見る。
すると外灯が灯る白い小道を、ひとりの男性がこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
薄汚れた茶色のオーバーオールに、焦げ茶色のベレー帽を被った中肉中背の男性はぱっと見た感じで20代なかごろくらい?
ズボンのポケットに両手を入れ、だるそうに歩いてくるその姿にはやけに見覚えがあった。
「もしかして……レックスさんかな?」


