ルキはレックスさんが吸い込まれるようにして入って行った森を見つめたまま、私の声に反応してくれない。



ルキ……どうしたんだろう。

呆然と森を見たまま動かなくなって、なんだか様子がおかしい。



「ねぇっ、ルキ?ぼーっとしちゃってどうしたの?」



たまらず肩を揺すってみたところで、ようやくルキの銀色の瞳が私を映した。



「……ルキ?」



いつものひだまりのような温かさが消えた瞳。

それはまるで別人のように冷たく、無機質な目だった。



「……ごめん、メイベル。今日はもう帰るよ」



ようやく発されたその声に力はなく、私の言葉も待たずにルキは背を向け寮へ向かって足早に歩きはじめた。



待って‼ルキっ、どうしたの⁉

と出かかった言葉を押し込め、無言で歩を進めるルキの後ろを何も言わずに追いかけた。



大きな魔獣と激闘をしたあとだから、ルキは何も言わなかったけれど本当は疲れているんだ。

大蛇を倒すまでにたくさん魔力を使ってしまったことだし、きっと無理をしていたのかもしれない。



だってルキの顔は、見たこともないほどに青ざめていたから。



「ごめんね、ルキ。ありがとう」



去り際に発した私の言葉にさえも反応を示さないほどだから、よほど疲れているのだろう。

そう解釈をした私は何も聞くことはせず、トイレの小窓から静かに寮へ戻った。