大蛇が黒煙に姿を変え完全に気配を消したあと、地面を埋め尽くすようにして現れた石筍も一斉に消えた。
そしてまた、さっきまでの騒動がまるで夢だったかのように静寂な夜が戻ってくる。
「メイベル……もう大丈夫だよ」
「……へっ⁉あっ、ごごごごめんっ‼」
ルキの背中に腕を回し密着したままだった私は、はっと我にかえり慌てて身を離した。
「ケガはない?」
「うっ、ううううんっ‼お陰様でもうこのとおりっ…‼ルキっ、ありがとう!」
今更のことながら、今までずっと抱きついていたということに恥ずかしくなってきた。
誤魔化すようにして「それにしてもやっぱりルキは凄いなぁ‼」と豪快に笑いながらルキにくるりと背中を向ける。
すると大蛇が現れた方角から、こちらへ向かって歩いてくる人影が目に入った。
「ん……あれ、もしかしてレックスさん?」
遠くの外灯に照らされ歩いてくる人物は、高めの身長といい、あのふてぶてしい歩き方といい、茶色のオーバーオールといい、レックスさんに間違いない。
「レックスさんって……あぁ、いつかの夜にもちょうどこの場所で会ったあの画家の…」
ルキも遠目からレックスさんだとわかったようで、レックスさんに向かって手を振りながら走り出した私のあとを追いかけてきてくれた。


