「何らかの魔法に妨害されてしまって、過去が見えないんだ」
「魔法に妨害?」
私が聞き返すよりも早く聞き返したルキもまた、ジェニファーさんと同じように眉を寄せている。
「そう。脳に防衛魔法がかけられてんだ。きっとアンタは、何者かに魔法をかけられて記憶を抜き取られでもしたんだろう。で、抜き取った記憶が戻らないよう蓋をされている状態ってとこか」
「そんなことって……」
つまりそれは、ルキは『記憶を消す』というまぼろしの魔法をかけられているということ?
でも記憶を消す魔法は確か、私たち人間には扱えない魔法のはずなのに。
だからそんなことってありえない。
魔法で記憶を消されたのはないでしょう、と私が首を横に振るとジェニファーさんは赤い瞳で私を見つめたまま、「それがありえるんだよ」と話しはじめた。
「メイベル、聞いたことないかい?魔法つかいにつくられた魔獣が、稀に創作主ですら使えない魔法を使える場合があるって話し」
「聞いたことある…。そういえば、カサエル先生も言ってたかも。魔獣は時に創作主以上の力を持って姿を現すこともあるから、だから怖いんだって…」
ジェニファーさんが言うには、ルキの記憶を消したのは魔法使いではなくて、強い魔獣ではないか、ということだった。
そういえば思いだした。
まぼろしの魔法は、人間には扱えない高度な魔法だけれど、稀に魔獣がまぼろしの魔法を使うことがあるんだって。


