5万円なんてそんな大金、もちろん持っているはずがなかった。
寮母さんから1ヶ月に一度支給されるお小遣いの、約半年ぶんに相当する金額だ。
それでも過去を見てもらえるのなら、ここで諦めるわけにはいかない。
「ジェニファーさん……半年がかりで払いますので、今ルキの過去を見てもらえませんか?」
「いいよ、メイベル。何も君が俺のことでそこまでしなくても。俺は大丈夫だから、地道に聞き込みをするよ」
「私はルキの力になりたいの。だってルキは私の命の恩人なんだから、できることがあればなんだってやるよ」
だから私に任せて、と言ってもルキは「駄目だ」と首を横にふるばかり。
そんな私とルキのやり取りを見ていたジェニファーさんが、突然豪快に笑いはじめた。
「あっははははは、冗談だよ冗談‼子供からそんな大金、巻き上げるわけないだろっ!いいよいいよ、無償でハンサムくんの過去を見てあげるよ」
「えっ……?いいんですか?ジェニファーさん…」
ジェニファーさんは空になったカップラーメンの容器の中に割り箸を入れると、「当たり前だろ」と、また声をあげて笑った。
「ありがとうございますっ‼」
ルキの低く柔らかい声と、私の高い声が重なった。
……って、ジェニファーさんがルキをハンサムくんって呼ぶことが気になるけれど…。
でも、本当に良かった。
ジェニファーさんのおかげで、ルキは記憶を取り戻すことができるかもしれない。
そう思ったら嬉しくて、勢い良く席を立つと再び「ありがとうございます‼」と、深々と頭をさげた。


