「うーん…それが顔までは思い出せないから性別はわからないなぁ。って……どうしたの?なんか泣きそうになってない?」
「だってルキに彼女がいたのかなって思ったら、すごく嫌な気持ちになって…想像したら泣きそうになってきた…」
「えっ?どういう意味?」
きょとんとした顔で聞き返され、「あっ、いや…やっぱりなんでもない!」と、火がついたように熱くなった顔を素早く背けた。
聞かれるがままに話してしまったけれど…何てことを口走ってしまったんだ私はぁぁっ!
彼女がいたら嫌、だなんてそんなこと、私はあなたが好きですって言っているようなもんじゃんっ!
「えっ、でも……」
「そんなことよりもっ!この道を真っ直ぐ行った先にある横断歩道を渡ると商店街になってるんだけど、そこに美味しいパスタ屋さんがあるの!行ってみない?」
「あー……うん。わかった、行こう」
どうにか誤魔化さなければ、と強引にパスタ屋さんに行くことを提案し、なんとか話題をかえることができた。
「ほらっ、ルキはパスタが好きでしょ?何度もテレビに取り上げられた美味しいお店があるんだよっ」
「それは楽しみだなぁ」
ルキがまだ心配そうに眉を下げていたから、「あーっ、お腹すいたなぁ」とむりやり笑ってみせた。
するとルキもまた「俺も」と優しい笑顔を返してくれる。
それをキッカケに、私とルキを纏う空気が和やかなものに戻る。
それでも「ルキの大切な人」が気になって仕方がなくて、ざわざわと騒ぎはじめた胸は、パスタ屋を目前にしても収まることはなかった。


