ヴーヴー

 突然鳴り出すケータイで目が覚めた。

 「ん…」

 ハルは眉をひそめたけど起きない。

 私はケータイを見ると、床に落ちた下着と服を身につける。そして化粧を直す。

 「…帰んの?」

 しばらくしてやっとハルが目を覚まし、上体を起こそうとする。

 「うん、ひとりで帰れるから大丈夫」

 「じゃあ玄関までな」

 ハルは上裸のまま、玄関まで一緒に歩いた。私は靴を履き、扉に手を掛けようとした時、ぐいっとハルが腕を掴んだ。

 「琥珀…」

 後ろから腕を回し、ぎゅっと抱きしめてくるハル。

 「…ハル?」

 ハルの腕に少し力が入る。

 「好きだよ」

 急に呟くハルに私は少し驚いた。

 「うん、私も大好き」

 私はゆっくりハルの方を向き直ると思わず目を見開いてしまった。

 「…ハル、涙…」

 ハルの目からゆらゆらと揺れる水が今にも零れ落ちそうだった。

 「泣かねぇよアホ」

 切なく笑うハル。そして顔を近づける。

 「んっ…」

 ハルは私にキスをした。

 「気をつけて帰れよ」

 私はハルの顔を見て、小さくうなずき、家を出た。
 なんで今にも泣きそうなくらい切ない顔してんのよ、ハル。

 やっぱり今日のハルはいつもと違う。でも私はその違いを本能的に探りたくなかった。だって、探ってしまったらきっと何かが変わってしまいそうだったから。この日常は日常ではなくなってしまう気がしたから。
 
 決して誤解しないで欲しい。私は本当にハルを愛しているという事を。