好きな人のはなし


 しばらくすると、ハルが階段を登ってくる足音が聞こえたので、つい姿勢を正し、身構えた。

 「あれ、テレビつけてよかったのに。はい、お茶しかないけど」

 コップに入ったお茶を私に手渡して、ハルもベッドに座りテレビをつけた。

 「この前面白そうなゲーム見つけて買ったんだけどさ、やんない?」

 反射的にハルの顔を見上げてしまった。いつもなら部屋に来ればそういう空気になるのに。ちょっとでも期待した自分が恥ずかしくなった。
そんな私の心情を読み取ることもなく、ハルはゲームディスクをセットしようとした。

 やっぱり今日のハルは、何だかいつもと違う。

 「琥珀?」

 ハルの言葉で我に返る。気づけば私はハルのワイシャツの裾を握っていた。

 ハルはディスクをケースに戻し、テレビも消した。

 「…なに、したいの?」

 わざと顔を近づけ私の頬を触った。私はそんなハルから目を逸らした。

 「"琥珀チャン"顔赤くなってますけど」

 ハルは恥ずかしさでうつむく私の下に垂れた髪の毛をそっと耳にかけた。くすぐったさが身体の中を電流のように走った。

 「…言わせないでよ、ばかハル」

 その状況の中で精一杯出た言葉だった。 

 ハルはクスッと笑い、私をベッドに優しく押し倒し、唇にそっとキスをした。

 「お前、可愛すぎ」

 今日のハルはとても優しくて、とてもズルい気がした。