好きな人のはなし


 家に着くとハルは制服のポケットからカギを取り出し開けた。昼夜関係なく、リビングに続く廊下はいつも薄暗かった。私は一刻も早く明るみにハルを照らしたいと思い玄関の電気を点けた。

 「飲み物持ってくから先に部屋行ってて」
 
 私に荷物を預けて、ハルは台所へと向かった。そして私は2階に上がると左にあるハルの部屋へと入った。部屋に入ると電気を点け、荷物を置き、ベッドに腰掛けた。

 ハルの部屋はデジタル時計なので、秒針の音も聞こえず、じっとしていれば静まり返っていた。ただ、時々電車が家の横をわざと音を立てるようにして通っていく。

 ハルはこんな広い空間の中で、たった一人で過ごしている。少し声を出せば部屋中響き渡るような空間にただ一人だけ。そんなハルが可哀想だと心から思っていた。