トイレから出る時、ふと鏡で自分の顔を見てみると、

 「ぶっっさ」

 声にも出るほど不細工で笑えてくる自分に泣きそうになった。ため息も出ない。こんな自分に呆れ返る。今日お風呂上がったらスキンケアちゃんとしよう…なんて、原因はそういう事じゃないのにな。

 「松下さん」

 教室に入ろうとした時、誰かに呼び止められた。振り向くとボブヘアーの目がクリッとした可愛らしい女の子が立っていた。誰だろうか。

 「私に何か…」

 「えっと…私、2年1組の西野愛美(にしのまなみ)です」

 2年1組…。ハルと宏太のクラスだ。

 「実はちょっと、お聞きしたい事がありまして」

 彼女はソワソワしながら困った表情で私を見た。
   
 「実は、ハルちゃんが最近元気なくて…」
  
 …ハルって名前の人は他にもいるのかな?

 「…あの、ハルちゃんって…どのハルちゃん…?」

 「え?あ…佐竹ハルくんです」

 なるほど…"ハルちゃん"ね。彼女の私でさえも呼んだことないけれど…。

 「…松下さんはハルちゃんとお付き合いしてるから、何か知ってるかなって…」

 …うーん、ちょっと苦手なタイプかも。案外こういう人って、心の中にズカズカ入ってくるんだよなぁ。見透かされているような、そんな気分になる。

 「…ごめん、何も聞いてないから分からないや。またハルと話してみるね」

 私は精一杯の作り笑いをして彼女を見た。

 「そっか…彼女の松下さんにも話さないのか…ハルちゃんが早く元気になればいいですね!」

 完全に嫌味っぽく言われた。あの子はハルに気があるんだろうな…。そりゃ、気がある人に彼女がいたら悔しいよね。でも、あいにくだけど、私だってハルを手放す気全くないから!…なんて、心の中で感情に蓋をして教室に戻った。