思い切り誰かにぶつかってしまったのだ。

 「わっ…すみません」

 反射的に勢い良く頭を下げたけど返事がない。私はゆっくり頭を上げると、そこには背が高い黒髪の男が私を見下ろして立っていた。

 あ…この人、ハルと仲がいい人だ。

 彼はまつ毛が長く切れ長のきれいな目で私をじっと見る。その瞳に吸い込まれそうになる私がいた。実際に見つめ合ったのはたった一瞬だったけれど、私にはとてもとても長いこと見つめていたように思えた。

 彼は私から目を教室に移した。そして、

 「ハル」

 と、低くてどこか優しさのある声を発した。声は大きくなかったのに、ハルは彼の声に気づいたのだ。

 一瞬にして私の心は奪われた。彼の空気が私を導いたかのように身体の中に入っていくのが分かった。雨音がどんどん大きくなって、耳を劈いたあの日。