ーーーーーーそれは今から、二ヶ月前の頃だった。ーーーーーー
「ねぇねぇ、今日でしょ。」
「何が?友達の阿野麻耶が、私に声をかけてきた。麻耶とはこの高校で出会って、すぐに仲良くなった。なんでも言い合える仲であり、悩み事にも相談に乗ってくれる。つまり、私の全てを知っている、親友だ。
「忘れたの?転校生よ、転校生。先生、今日言ってたでしょ。このクラスに、転校生がやって来るって。」
「あ〜。そう言えば、そんなこと言ってたけ。」
興奮して話す麻耶の言葉を聞いて、私は適当に相槌をうつ。
「ちょっと、結衣。全然、興味ないっていう顔してるじゃん。さっきから、空ばっかり見上げてるし………。」
「えー、そんなことないよ。男性かな?女性かな?楽しみー。」
教室の窓際の近くで、私は敢えて大げさに驚いて見せた。外からは雨音がうるさく聞こえており、梅雨真っ盛りの不安定な天気が続いている。
「はいみんな、席について。」
担任の若い女性教師と見たことのない若い男性が、午前9時ぴったりに教室の中に入って来た。騒がしかった教室も、先生の指示通りにみんな自分の席に戻っていく。
「あ〜、結衣。転校生、男の子だよ。私、女の子の方がよかったなー。」
と言いいながら、麻耶は自分の席に戻った。
「私は、どっちでもいいかな。」
そう言って私も、自分の席に戻った。
「この前から言っていた通り、転校生が今日からこのクラスの仲間になります。授業を始める前に、転校生から簡単な自己紹介をしてもらいます。では、お願いします。」
「はい。」
担任の若い女性教師が教壇から降り、反対に転校生が教壇に上がった。クラスメイトの視線が、転校生に集まる。
「大川未来です。みなさん、よろしくお願いします。」
抑えた声で、簡単な自己紹介を済ました転校生の大川未来。
「ありがとう、未来君。じゃ空いている、あの席に座って。」
担任の若い女性教師が、空いている私の隣の席を指差した。
ーーーーーードクン!
その瞬間、私の心臓の鼓動が音を立てた。
何で、私の隣に転校生が………
「あの、未来です。よろしくお願いします。」
「よ、よろしくお願いします。さ、酒井結衣です。」
彼の近づいて来る足音すら聞こえず、気がつくと私のすぐ真横に転校生の未来君の姿が映った。その距離、約二メートル。
ーーーーーードクン。
また、私の心臓の鼓動が音を立てた。
「これって………」
緊張してるのか恋をしてるのか分からなかったが、私の顔はリンゴのように赤くなっていた。そして左胸に右手を置いた。ドクドクといつも以上に自分の心臓の鼓動が速くなっているのを感じる。
「未来君は、隣の結衣さんに教科書を見せてもらってください。結衣さんは、もう少し未来君に席を近づけてください。」
「は、はい。」
私は、小声で返事をした。そして先生に言われたように、未来君の席に自分の席を近づけた。
「なんか、ごめんな。」
「え!」
未来君は、寂しそうな口調で私に謝った。彼から伝わる寂しそうな雰囲気と、波のように揺れる悲しそうな瞳。
「い、いいよ。」
そんな彼を見ると、私の心音が自然と大きくなる。