ーーーーーー好きと思っていても、その言葉を口に出さない限り、相手には伝わらない。
「未来君………。」
私は、彼の名前を口にした。彼に聞こえないぐらい、その声はとても小さかった。
「………」
もちろん、私の声は彼には聞こえていない。大川未来は、私の隣の机で肘をついて小さな寝息を立てていた。
ーーーーーー起こさないと、授業中だし………。
と、私、酒井結衣は心配そうにそう思った。
「あ、あの……未来………」
「大川君、また授業中に居眠りですか？」
私が声をかけようと思ったそのとき、担任の若い女性教師が先に未来君に声をかけた。
ーーーーーーいいなぁ。
と、私は心の中で思った。
「す、すみません。先生」
虚ろな目でをこすりながら頭を下げる、未来君。黒い髪を短く切り揃えられた、私よりも少し背が高い。メガネをかけており、日に焼けた健康的な褐色の肌色。周囲の男性とは見た目は変わらず、どこにでもいる普通の男子高校生。でも、私は一瞬で好きになったんだよ。君に出会った瞬間。君に声をかけられた瞬間。私は君の優しい心と、寂しい雰囲気に一気に好きになったんだよ。
「………」
私は、思い出す。青い絵の具で塗りつぶしたような広々とした夏空を教室の窓から見上げ、彼がこの高校に転校してきた日を……。