「お祖父ちゃん、さっきも言ったけど私は結婚なんてしたくないの!
男性とも付き合いたくないし、今日みたいなことをされると迷惑。
今回限りにして。もう二度とあの人とは会いませんから!」


啖呵を切りながら睨み上げ、プイと顔を背けて二階へ上がる。

祖父はしょんぼりと肩を落としてた。
背後にそれを感じながら、それでも無理と思った。




「はあ……」


ドアを閉め、大きな溜息を吐く。
祖父の気持ちは有難いけど、私はやっぱり恋愛はもういい。

別れた彼のことで懲りてしまった。
あんなエネルギーの要るようなこと、もう二度と経験したくなんかない。


帯を解いてようやくお腹に息が入ってきた様な気がする。
思いきり吸い込んだ後は吐き出して、暑かった…と小さな声を漏らした。


絽の薄物を脱ぎ、ハンガーに掛けながら一緒に版画を観た人の言葉を思い出した。



『……あんたがどんなに結婚しないと嫌がっても多分逆らえないと思う。あんたの家とうちとでは、長い歴史が絡んでるんだ』


長い歴史とは何かと聞いたら説明するのも面倒くさいと誤魔化された。