「どうぞまたお越し下さい」


翌日、ホテルを出る時に支配人さんから民話の本をプレゼントされた。

手渡された本を抱くように持ってると、朝まで熟睡しきってた彼が不満そうに握った。


「持ってやる」


不覚にもうっかり寝込んでしまったのが気に入らないらしい。
起きると私は既に着替えてて、それも加わって不機嫌なんだ。


(……だからってここまで顔に出さなくても)


こっちは寝る前も起きてからもドキドキしてたのに、結局何も無いままホテルを出ることになった。

何かがあったからといって、応じれたかと言うとそんな気もしないけど、こう露骨に顔に出されると色々と複雑な気もしてきてーー。


車に乗り込み、運転席に座る彼をちらっと見て、今日は一日こんな顔のままでいるのかな…と溜息を吐いた。

意外にも子供みたいなところがあると思うと、それは少し笑えてきそうだけど。


「何処か行きたい場所はあるか?」


エンジンをかけた彼が仏頂面のまま聞き、後部座席に置いてある本のことを思い出した。


「月野という地区に行ってみたい。先祖が生まれた場所が見てみたいな」