(あー暑いっ!暑い暑いっ!)


全く今年の夏はどうなってんの!?
毎日夕立すらも降らず、人間も貯水池の水のように干からびてしまいそうだよ。


なのに、私は何が悲しくてこんな着物姿でこの場所にいなくちゃならない?
この夏の真っ盛りにお腹にぐるぐると帯を巻いてバカみたいもいいところ。


着てるのは浴衣じゃなくて付け下げの薄物だけど、着慣れない私には暑さが倍増して感じられる。

クリーム色の絽に睡蓮の花をあしらった着物は、祖母が若い頃に作ったものだと聞かされた。



「それをまさか自分が着ることになるなんて…」


しかも猛暑を超えて酷暑のこの夏に。


「あーもう、イライラしてくる!」


さっきからずっと待ちぼうけを食わされてるせい。
待ち合わせの場所に相手がやって来ないから。



「今のうちに逃げちゃおっかな〜〜」


良からぬ考えが頭の中でまとまり始める。

様子を見に行ったまま戻って来ない祖父が来る前に、さっさとこの場所から立ち上がって別の所へ移動しようか。



(……でも、何処に?)